設立趣旨

 学会発足までの経緯 

1.研究会設立の主旨

   スポーツ運動学の萌芽は第二次世界大戦以前に求められますが、それが科学的研究領域として地歩を固めるのは戦後までまたなければなりません。東ドイツのマイネルが実践に役立つ科学的研究領域を標榜して「スポーツ運動学」を上梓したのは1960年のことです。さらにオーストリーのフェッツは1964年に「体育運動の運動学研究」を公刊しています。これに続いて西側諸国にも多くの同学の士が出現し、新しい科学領域としてのスポーツ運動学は、その後数多くの研究論文に支えられてその内容に大きな広がりを見せ、今日に至っています。とくに1980年代に入ると、西ヨーロッパを中心に、理論と実践の相剋を乗り越えようとしたマイネル運動学の見直しを迫る提言が数多く出され、さらに運動学と銘打った多数の著作物や教科書が出版されるなど、スポーツ運動学をめぐる動きが急激に表面化してきました。

   これに対して我が国でも、スポーツ科学の現状に、つまりスポーツ運動という現象をさまざまな既成の個別科学的な断面に引き裂いて研究することに疑問をもつ人たちが、実践に役立つ研究活動を切望し、スポーツ運動学に関する情報や意見を交換する場を作ろうという動きが急速に表面化してきています。これらの多くの人たちは教員養成機関や体育の実践の場で、それぞれのスポーツ種目を担当し、マイネルの指摘をまつまでもなく、非常に豊かな方法論的な実践経験をもっているにもかかわらず、 今日の我が国のスポーツ科学の枠組みに縛られて、それが役に立とうが立つまいが、まったく異質の世界の個別科学的な研究を余儀なくされているというのが現状ではないでしょうか。

   ヨーロッパでは既に、体育学という古い名称から脱皮して、スポーツ科学という名称が一般に用いられるようになっているのは周知のとおりです。しかしスポーツに対する社会的なニーズが急激に高まっている一方で、我が国の体育学の現状の枠組みでは、スポーツ科学は医者や自然科学者、あるいは教育学者といった、個別科学の研究者たちによっ て次第に席巻されてしまい、ついに実践的な経験に根差した研究を志す多くの人達が研究の場から切り捨てられてしまうといったことも、決して杞憂とは言えない社会情勢になってきています。このためには、実践的な経験を踏まえた多くの研究がその正当な評価を受けられる受け皿作りが急務であり、それによって他の科学領域の人達と対等にたたかえる業績を積みあげる可能性を開いておく必要があると考えられます。このような現状の中で、実践的な経験をふまえた研究を発表できる場をさらに増やしてゆくことは、スポーツ科学の発展にも大いに寄与しうるところだと考えます。

2.これまでの経緯

   こうした情況の中で、最近、スポーツ運動学に関心を持つ多くの人達が研究や情報の相互交流の場を求める機運がとみに高くなってきています。しかし我が国では、この種の研究に関する情報交換の場はまっ たく存在しないというのが現状です。スポーツ運動学研究会設立の提言をするに至ったそもそもの切っ掛けは、昨年の11月に筑波大学で開催された体育学会の折に、かなり多くの人達からこの旨のお申出をいただいたことにあります。前々から、折に触れてこの種の提案がなかった訳ではありませんが、今回は幸いにも非常に多くの人からの要望を伺うことができました。それ以来、連絡がとれる範囲の若手の研究者を中心に種々検討を重ねてまいりました。

   研究会の設立にあたって、長期的な展望をもたずに実際の活動を開始することは、これまでの経緯から見てかなりの困難が予想されます。そこでまずはじめに、若手の研究者を中心として世話 人会を開催し、そこで研究会設立の具体的な手順を煮詰めようということになり、連絡のとれる範囲の若手の研究者の方たちに研究会設立の世話人をお願いしたところ、別途資料1の46名の方たちから快諾を得ることができ、本年3月31日に筑波大学において世話人会を開催致しました。当日は校務等のために13名の方が欠席されましたが、33名の方の出席をいただき、研究会設立の具体的な手順について活発な論議がかわされ、世話人会→発起人の依頼と承諾→研究会会員の募集→総会兼研究会の開催→研究誌の発刊までの手順が確認されました。同時にこの機会を利用して、筑波大学教授・金子明友氏に「スポーツ運動学の今日的課題」というテーマで講演を依頼し、研究会に関する共通理解を得るための手掛かりとされました。

※以上,「スポーツ運動学研究会設立に関するご案内」(1987)より

3.スポーツ運動学研究会から「日本スポーツ運動学会」へ

    スポーツ運動学研究会という名称は、1991年の学会総会において「日本スポーツ運動学会」に変更され、1993年9月10日付で第16期日本学術会議に学術団体としての登録が認められました。年に一度の学会大会の定期開催をはじめ、今日までに27巻(2014)の学会誌(「スポーツ運動学研究」)を発行し、その学術的なレベルについては内外から高い評価を受けています。

    スポーツ運動学会の活動とともにマイネルが目指した実践的運動学は、我が国オリジナル運動学(金子運動学)としての発展をみせ、世界に先駆けて理論的枠組みが構築されたことはまさに歴史的な出来事だと思います。専門書の出版とともに研究論文も数多く発表されるようになり、今後更に深化・発展いくことに大きな期待が寄せられています。

    しかし一方で、関連諸科学の研究拡大も著しく、我々が自然科学的思考の遮断に手間どっている間に相変わらず理論と実践の断層を嘆く声が上がったりしています。スポーツ学体系においてこの本質理論が基礎づけに位置することを自覚し、更なる研究の発展とともにあらゆる階層の実践現場に対してもわかり易い方法論をもって普及・還元していくことが本学会の使命と考えています。今日のスポーツ運動学の全体像については「運動学の概要紹介」を参照して下さい。